― 子どもと水泳 ―

 現代の子ども達にとって、スイミングスクールなどの室内プールの普及により、水泳というスポーツは学校体育の枠を越え、身近なものになってきています。このようなスイミングスクールに通う理由として、水泳による体力の向上・呼吸機能の強化、運動不足の解消、肥満の予防および治療、体温調節の向上による風邪罹患予防、喘息治療、学習スポーツとしての水泳技術の取得などが考えられます。
 スポーツとしての水泳の最も大きな特徴は、呼吸が自由にできず、制限され、呼吸法を習得する必要があるということです。さらに、他の陸上スポーツと異なる点は、水圧、浮力、水温などの水特有の因子の他、体位や精神的ストレス、自律神経系の影響を受けることです。水泳はスキューバダイビングと異なり、水面ぎりぎりで行うスポーツなので、水圧はそれほどかからず、浮力も子どもでは体比重が軽く、問題とはなりません。しかし、水の熱伝導率は空気の約4倍大きく、陸上より高いエネルギー消費が起こり、水中では身体の熱放散が大きいので、大人に比べ体重当りの体表面積の大きい子どもは体温調節が悪く、水温があまり低いと子どもの身体はすぐに冷えてしまいます。特に、水温が24℃以下になると、わずかな時間で急激に直腸温が低下し、交感神経の興奮と同時に迷走神経の興奮状態となり、不整脈などの心・血管系の異常を起こすこともあります。したがって、たとえ真夏の炎天下でも、屋外プールや海や川で水泳をする時は水温に十分注意する必要があります。最近の室内プールは、年齢や用途に応じて至適水温が設定されており、乳幼児では29~31℃、小学生以上では26~30℃、妊婦では29~31℃、競泳では24~26℃とされています。
 首まで水につかると、水圧、浮力、水温などの水特有の因子が循環器系や自律神経系やホルモンの分泌に作用し、心拍数、平均動脈圧、末梢血管抵抗は減少し、心拍出量、脈圧、中心静脈圧は増加します。また、水の浮力と水平の体位により心臓への負担は軽減されます。しかし、水泳・潜水時には健康児でも不整脈が約20~50%と高率に出現し、その再現率は約50%とされています。特に、徐脈(潜水性徐脈)、洞性不整脈、心室性期外収縮は副交感神経との関係が強いとされています。水中での重症な不整脈の出現は溺水や溺死につながるので、心電図での不整脈のスクリーニングが必要です。水温5~7℃の冷水に顔面をつけると、迷走神経が刺激され、潜水を行った時と同様の重症度や頻度で不整脈が出現します(冷水顔面浸水試験)。一方、水泳中の運動負荷関連の不整脈は、角度をつけたベルトコンベアー式のトレッドミル負荷心電図を取って判定します。