― 先天性風疹症候群(CRS;Congenital Rubella Syndrome)―
風疹は発疹(ブツブツ)が3日ほどみられることから「3日はしか」とも言われ、グリグリの腫れ(リンパ節腫脹)や軽度の発熱がみられる程度の軽い病気です。大人になってからかかると小児より重症化する傾向がありますが、それでも数日間の高熱程度で、重篤な合併症を併発したり、死亡したりすることはありません。しかし、1941年オーストラリアの眼科医Norman Greggが妊婦の風疹感染と出生児の白内障、心臓奇形、難聴などの先天異常との因果関係を示して以来、先天性風疹症候群(CRS;Congenital Rubella Syndrome)(以下CRSと略す)は妊婦の感染症が胎児に影響を及ぼす病気として知られるようになりました。
CRSは白内障、動脈管開存症などの心臓奇形、難聴がみられるもので、低出生体重、血小板減少性紫斑病、肝炎などの一過性障害や、中枢神経障害、糖尿病などの遅発性障害も起こしてきます(表)。妊娠初期に風疹にかかった可能性のある場合には、出生後に児の風疹IgM抗体価を測定し、高値の場合は感染している可能性があり、出生時に全く異常がなくても長期にわたり、聴力や精神神経発達の経過を追うことが必要です。先天異常の頻度は、妊娠初期ほど高率で、妊娠1カ月で50%以上、2カ月で35%、3カ月で18%、4カ月で8%程度で、妊娠5カ月までは起こり得るとされています(図)。
これらのCRSの発生を予防するために1977年(昭和52年)より女子中学生2~3年生に風疹ワクチンの定期接種が行われるようになり、1989年(平成1年)からは流行阻止を目的としてMMR(麻疹、ムンプス、風疹)ワクチンが1~7歳6カ月児を対象に接種可能となりましたが、髄膜炎を起こす副作用が問題となり、1993年4月より中止されました。1995年(平成6年)4月からは予防接種法が改定され、風疹単独ワクチンが1~7歳6カ月児を対象に義務接種(予防接種を義務として受けなければならない)から勧奨接種(予防接種を受けるように努める、勧める)に変わりました。
風疹ワクチンの抗体獲得率は100%ではなく、ワクチン実施世代の妊婦の風疹抗体陰性率は3%程度あるとされています。勧奨接種で個別接種化後、中学生の接種率が低下しており、今後、風疹の流行と共にCRSの増加が懸念されています。従って、成人女性は妊娠前に風疹抗体検査を受け、抗体のない場合には妊娠していないことを確認してから接種し、接種後2~3カ月は避妊が必要です。また、風疹自然感染者の再感染やワクチン接種後の風疹感染の発症もまれにあり、風疹抗体陽性者の再感染によってもCRSは起こることが報告されており、風疹既往歴やワクチン接種歴があっても妊娠中は風疹罹患者との接触は避けた方がいいようです。