― 注意欠陥多動(性)障害ADHD Attention Deficit Hyperactivity Disorder ―

 幼児期前半から学童期にかけて、知能障害はないか、あっても軽く、注意の持続・集中が困難で落ちつきがなく、多動で抑制がきかず、気分が変動しやすく、衝動的、攻撃的な子どもは、能に微細な損傷があると考えられ、微細脳機能障害MBD(Minimal Brain Dysfunction)と呼ばれていましたが、現在は、症状に注目して、注意欠陥障害ADD(Attention Deficit Disorder)や多動障害と呼ばれるようになり、米国精神疾患の分類と診断の手続き(DSM-Ⅳ、1994)(表)では、3型に分けられています。
 ADHDの病因は、脳の直接損傷だけではなく、モノアミンの代謝異常など多くの説がありますが、確定したものはなく、遺伝的素因に胎生期・周産期あるいは後天性に多くの因子が関わり、発症するものと考えられています(図)。既往歴として熱性痙攣、無熱性痙攣がそれぞれ10.1%、1.8%みられたという報告や、両親の離婚、別居など心理社会的要因を認めたものが15.7%あったという報告もあります。


■注意欠陥/多動性障害
Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder

A.(1)か(2)のどちらか:
(1)以下の不注意の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月以上続いたことがあり、その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの:
不注意
(a)学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない。または不注意な過ちをおかす。
(b)課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である。
(c)直接話しかけられた時にしばしば聞いていないように見える。
(d)しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動または指示を理解できないためではなく)。
(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。
(f)(学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
(g)(例えばおもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、道具など)課題や活動に必要なものをしばしばなくす。
(h)しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる。
(i)しばしば毎日の活動を忘れてしまう。
(2)以下の多動性-衝動性の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月以上持続したことがあり、その程度は不適応的で、発達水準に相応しない:
多動性
(a)しばしば手足をそわそわと動かし、またはいすの上でもじもじする。
(b)しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる。
(c)しばしば、不適切な状況で、余計に走り回ったり高い所へ上ったりする(青年または成人では落着かない感じの自覚のみに限られるかも知れない)。(d)しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。
(e)しばしば“じっとしていない”またはまるで“エンジンで動かされるように”行動する。
(f)しばしばしゃべりすぎる。
衝動性
(g)しばしば質問が終わる前にだし抜けに答えてしまう。
(h)しばしば順番を待つことが困難である。
(i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例えば、会話やゲームに干渉する)。
B.多動性-衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳未満に存在し、障害を引き起こしている。
C.これらの症状による障害が2つ以上の状況において(例えば、学校[または仕事]と家庭)存在する。
D.社会的、学業的または職業的機能において、臨床的に著しい障害が存在するという明確な証拠が存在しなければならない。
E.その症状は広汎性発達障害、精神分裂病、またはその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(例えば、気分障害、不安障害、解離性障害、または人格障害)ではうまく説明されない。
E病型に基づいてコード番号をつけること:
314.01 注意欠陥/多動性障害、混合型:過去6カ月間A1とA2の基準をともに満たしている場合。
314.00 注意欠陥/多動性障害、不注意優勢型:過去6カ月間、基準A1を満たすが基準A2を満たさない場合。
314.01 注意欠陥/多動性障害、多動性-衝動性優勢型:過去6カ月間、基準A2を満たすが基準A1を満たさない場合。

コード番号をつける上での注意
(特に青年および成人で)現在、基準を完全に満たさない症状をもつものには“部分寛解”と特定しておくべきである。(DSM-Ⅳ)