アデノウイルス感染症②
― 症状・治療 ―
アデノウイルスはインフルエンザウイルスの次に人の体から検出される頻度が高く、アデノウイルス感染症は冬の終わりから初夏にかけて流行します。アデノウイルスによる急性上気道炎は、1歳代に最も多く、0~2歳で全体の約半数を占めます。通年性に認められ、夏季に多いとは限りません。胃腸炎は通年性で、主として4歳以下に多くみられます。アデノウイルスは発症最初の数日でウイルス排泄が多くなり、その後、数週間にわたってウイルスを排泄しますが、熱が下がって1日目くらいで、発症した時と同じくらいになります。潜伏期は上気道炎で2~14日、胃腸炎で3~10日で、だいたい5~7日とされています。その病型は軽いカゼ程度から重症の扁桃炎や肺炎、さらには結膜炎や嘔吐下痢症など様々で、結膜炎を起こすものは全体で10%程度とされています。扁桃炎や結膜炎などはその症状が非常に強くて、細菌感染によるものと見分けがつかないこともあり、検査では、末梢血白血球数は10,000以上に増加し、炎症反応をみるCRP値も5mg/dl程度まで増加する事が多いとされています。
アデノウイルスは人から人へ感染し、上気道炎では唾液などで伝染しますが、咳や鼻水がエアロゾルとなって飛んできて感染します。胃腸炎をおこすものは、便を介して感染し、結膜から直接接触により感染することもあります。咽頭結膜熱はプールの水やタオルの共有などで結膜からウイルスが入っておこります。
細菌感染では通常、抗生剤が効きますが、アデノウイルスの感染では抗生剤は効きません。最高体温は39.0℃以上となることが多く、38℃以上の高熱が1週間前後(約5日間)続き、解熱剤(坐薬)もあまり効果がないことがよくみられます。脱水となって、点滴することも多く、水分補給が大切です。幸い多くの場合、時間さえ経てば自然に治るのですが、その間、治療する方もされる方も不安な気持ちになるものです。周りで看病する人が、ゆったりとした気持ちで接し、スキンシップを十分とって、不安を取り除いてあげる事も大切です。のどの痛みはあまり強くありませんが、赤く腫れた扁桃腺に膿がついたように白い滲出物が付着するのがよくみられます。免疫がつきにくいため何回もかかることもあります。日数か過ぎれば免疫力でウイルスは死滅し、症状が改善します。特異的治療法はないため、対症療法が中心となります。眼症状が強い場合には眼科的治療が必要になることもあります。
アデノウイルス感染を診断するためには、以前はウイルス培養という特殊な検査や2回以上血液検査をして、抗体が増えているかどうか調べなければなりませんでした。ウイルス培養は結果が出るまで1ヶ月以上かかり、血液検査は数週間の期間を置いて2回以上行って判定しなければならないため、実際の診療にはほとんど役に立たないものでしたが、最近、綿棒で拭い取った咽の浸出液や便や目やにを調べることによって、その場で簡単にアデノウイルスの感染を診断することができるようになりました。咽頭ぬぐい液を検体とした抗原検出キットの感度は、発熱4日目以降は80%が60%くらいに低下するため、3日目までに抗原検出キットでの診断を試みることが大切です。
ウイルスそのものに対する薬はなく、細菌の混合感染を防ぐために抗生剤を使ったり、熱や脱水症状に対する対症療法しかありません。のどの症状が強い時は食欲が落ちますので、のどごしが良いものを与え、水分補給を心がけます。ぐったりしていれば点滴したり、症状によっては入院が必要となる場合もありますので、早めに医療機関を受診しましょう。熱が高い割にはひきつけを起こすことは少ないようです。一部の重症例を除いて、時間さえたてば自然に治るだろうと予想することができるようになりました。重症例や難治例にはステロイドやガンマグロブリン(ヒト免疫グロブリン)が効果があることがあります。