テレビ・ビデオの子どもへの影響①
― ポケットモンスター問題① ―

 1997年12月16日午後6時30分からのアニメ番組「ポケット・モンスター;でんのうせんしポリゴン」(テレビ東京系)(視聴率16.5%、全国414万世帯が視聴)のクライマックスの6時50分過ぎ、コンピューター内にいる主人公のサトシたちにめがけてミサイルが発射され、これをピカチュウが電撃で撃破するシーンで、爆破の衝撃波が画面一杯に広がり、画面全体が赤と青に激しく明滅した4秒間に、「目が痛くなった」「気持ちが悪くなった」「頭がぼうっとした」「吐き気がした」「手や足が震えたり、ひきつけたり、痙攣した」「周りのことが分からなくなった」「頭が痛くなった」「目がちかちかした」「頭がくらくらした」などの症状を訴え、0~18歳までの685人が救急車で病院に運ばれ、その内の218人が入院しました。また、ニュースを見た男性が興味本位で番組の録画ビデオを見て異常を訴えたという記事も報道されました。これより、1998年4月16日の放送再開まで、4ヶ月間アニメ番組「ポケットモンスター」は中止されました。
 厚生省科学特別研究班が実際に見ていた4,000人の子どもたちからの実態調査では、①暗い部屋で見ていた、②テレビ画面からの距離が1メートル以内の至近距離で見ていた、③番組への感情移入の強かった、一人で夢中で見ていた子どもに多く発生したことがわかりました。原因は、アニメの製作現場ではよく使われている赤と青と言ったコントラストの強い色を交互に点滅させる「フリッカー(パカパカ)」という手法と、ストロボを焚いたような効果を生む「透過光方式(下から照明光を当てて画面が発光したように撮影する方法)」というアニメ技法だろうと推測されました。多くの新聞記事に「光過敏性てんかん」という言葉が使用され、日本てんかん協会は「光の刺激によって発作を起こすてんかんもあるが、まれなケース。可能性は否定しないが、医師による正確な診断が必要。てんかんへの差別や偏見を助長しないよう気をつけてほしい」と要望書を出しています。「光過敏性」という言葉は、光によって症状を起こす皮膚疾患などと間違えやすいという理由から、以後「光感受性」という言葉が使われるようになりました。
 1998年4月3日の厚生省「光感受性発作に関する研究」の報告書の中の健康被害状況の実態調査では、「ポケモンを見ていて具合が悪くなった」と答えた人は、視聴者の10.4%に上っていたことが判明しています。4月4日には郵政省が「放送と視聴覚機能に関する検討会」の中間報告で、「『ポケットモンスター問題』は、テレビ視聴を契機に発生したものであり、映像表示手法の高度化が、場合によっては人体に対して悪影響を及ぼすことがあり得ることの最初の大規模な実例である」という考えを示し、その提言の中で「放送番組において表現手法の多様性は最大限確保される必要があるが、テレビ番組の表示手法によって子どもを中心に多くの視聴者の健康に被害が生じたことは極めて深刻な問題である」とし、「今後、通信と放送の融合が進展する中で、放送番組が放送以外で2次利用される機会が増加することが考えられ、映像表示手法の視聴覚機能に及ぼす影響については、放送分野のみならず、映像分野全体において留意されるべきである」と映像関係全体にわたった注意が必要であることを指摘しました。