― 停留精巣(睾丸)―

 停留精巣は精巣(睾丸)が陰嚢の中に降りてきていないもので、胎児期の内分泌環境(視床下部-下垂体-精巣系)の異常が原因とされ、しばしば先天性の奇形症候群や染色体異常に合併します。停留精巣は男子性器患者の中では最も多く、発生頻度は生下時4~10%、1歳時約1%で、約80%が片側性で、低出生体重児ではさらに多いとされています。
 本症の約80%は精巣が鼠径部にあり、触診によって診断することができます。精巣を容易に陰嚢下部まで引き降ろせ、すぐに元に戻らないものは移動性精巣と呼ばれ、思春期ぐらいには陰嚢内に降りてくるため治療の必要はありません。精巣を全く触れない場合、6~9%が腹部(腹腔内)精巣で、約4%が精巣欠損とされています。反対側の陰嚢内精巣が普通の大きさならば腹部精巣のことが多く、精巣の長径が20㎜以上で普通より大きければ精巣欠損が疑われます。
 診断のためには超音波検査やCTスキャン、MRI、腹腔鏡検査、精巣血管造影などがあり、治療もかねて腹腔鏡検査が行われることが増えているようです。精巣を全く触れない場合、ホルモン検査をしてゴナドトロピンが正常より高く、hCG刺激テストでテストステロンの上昇がなければ、両側の精巣欠損と診断されます。
 合併症として鼠径ヘルニア、精巣外傷、精巣回転症(精索捻転)、精巣腫瘍、不妊症などがあります。精巣腫瘍は本症の1~2%にみられ、普通の7~40倍と高率です。ほとんどが思春期以後、20~30歳代が多く、小児期の発症はまれです。小児期に精巣固定術を行っても発生率の低下にはつながらず、腫瘍が発生しやすい理由は不明です。また、不妊症は精子ができない無精子症によるもので、片側性の停留精巣で25~40%、両側性で65~80%と高率で、精巣固定術をしなければ発生率はさらに高くなります。不妊症の原因は腹部が陰嚢内よりも温度が高いため(高温説)や、ゴナドトロピンなどのホルモン分泌不足(内分泌環境異常説)などが挙げられますが、はっきりした原因は不明です。
 治療の目的は、精巣を触診しやすい陰嚢内に降ろして、腫瘍の発見を容易にする、不妊症の発生率を低下させる、精巣の外傷・回転、鼠径ヘルニアを予防する、心理的な影響を軽減するなどです。精巣の自然下降は9カ月以降は起きず、また、精巣組織の病的変化が1歳頃から始まることから治療は1~3歳で行われます。
 治療法はホルモン療法と手術療法があります。ホルモン療法は、日本ではほとんど行われていませんが、欧米では一般的で、軽症例にはある程度有効で、成功率は20~50%とされています。手術療法は、精巣血管を剥離延長させ、鼠径部にある精巣を陰嚢内に引き降ろす精巣固定術が行われ、成功率は高く、安全ですが、腹部精巣のように高位精巣の手術は難しいとされています。治療は成功しても、将来の精巣腫瘍の発生と不妊症の可能性は残るので、長期にわたる経過観察が必要となります。