― 母親支援 ―
今回は、2004年7月16日に開催された第219回応用教育心理学研究会の講演要旨を載せて、子どもの視点から見た母親支援を考えてみたいと思います。
平成12年度の厚生労働省の「健やか親子21検討会」の報告書には、「乳幼児期の子どもの健康のためには、母親が育児を楽しめるような育児環境を整備することが不可欠」と述べられています。このことは、子どもの健やかな成長発達のためには、母親が安心して育児を楽しめるような「母親の心のゆとり」が必要であり、そのための育児支援は「母親を支える」ことにつながるものだと思います。一方、1歳までの乳児期では育児と就労の両立は大変で、どちらかを犠牲にせざるを得ないこともよくあり、低年齢児保育、延長保育や夜間、休日保育、病児保育などが行われ、育児環境は多様化しています。
2003年に未就学児を持つ2,000世帯の父母を対象に行われた子育て支援策等に関する調査(03/05/02厚労省報道発表資料)によれば、母親は、子どもと自分だけで家庭の中にいるのではなく、日常的に子どもと安心して過ごせる居場所を求め、気持ちを理解してくれる支援者に気軽に相談することや、アドバイスを受けることを望んでおり、「子育て中の親が集まって相談や情報交換のできる場」づくりや一時預かりサービス等の子育て支援事業の充実が必要とされています。また、父親も、家事や育児を仕事と同等かそれ以上に優先させたいと考えていますが、「子育てに十分時間をかけられない」「休みが取りにくい、残業が多い」など、職場の無理解や制度・慣例にしばられ、子育てや家族との時間、地域との関わりを持てない実態があり、仕事時間と生活時間のバランスがとれる多様な働き方を選択できるような「働き方の見直し」が必要だと報告されています。さらに、子育ての不安や悩みは、母親ほどではないが、子育てに関わりたくとも「子育ての接し方に自信が持てない」という父親も少なくないことから、子育てに関する男性を対象とした情報提供や研修機会も必要となっています。さらに、核家族の家庭では、「子どもとの接し方に自信がない」「仕事や自分の時間を十分に取れない」ことを悩んでいる人が多く、地域や親族、配偶者の支援を得られず、一人で子育てを行うことの精神的な負担を感じ、自分の時間や社会との接点を求めていると報告されています。
2003年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均数)が1.29と過去最低を更新し、高齢社会を支える若者が減り、社会基盤が揺らいでいます。高齢者介護は社会化が進む一方で、子どもに関連する社会保障の給付費がわずか3%という現実に、もっと目を向け、育児支援体制の充実を図り、「母親を支える」ことが大切です。この「母親を支える」ことは、子どもと安心して過ごせる時間、空間、仲間を確保することではないかと思います。「子育ては特別である」として、子どもの豊かな心の発達のために、十分な育児手当の支給と乳児期育児休暇の義務化、また、育児に対して社会全体が、「子どもは社会の宝」として、子どもに敬意を払って感謝する雰囲気が作られ、孤立した母親を支援するシステムが作られ、母親も父親も育児が楽しめるように、子育てのために仕事を堂々と休める国民的コンセンサスを得ることが大切です。子育ては、とても大変な仕事ですが、それだけやりがいのある仕事であり、親が生涯をかけても価値のある仕事だと思います。すべてを他人任せにしていたのでは、これからの日本を支える若者は育たないのではないでしょうか?できるだけ親の元で、手塩をかけて育てられることが、子どもにとっての最大の幸せではないかと思います。そして、温かい愛情と優しさや思いやりをもって励ましてくれる夫や家族の理解と協力が、「母親を支える」ことにつながるのだと思います。