発育期のサッカーにおけるスポーツ外傷・障害③
- 裂離(剥離)骨折 -
発育期のサッカーによくみられる骨折として、裂離(剥離)骨折があります。発育期の骨格は成長過程で力学的に弱い部位があり、筋肉や靭帯の断裂が起こることは少なく、裂離骨折を起こすことが多くなります。筋付着骨端部(apophysis)は股関節周辺では大転子を除き12歳頃から骨端核が出現し、25歳ぐらいまでに骨端線は閉鎖しますが、それまでは力学的に弱く、骨端部に付着している筋肉の強力な収縮によって裂離骨折が起こります。
下肢では上前腸骨棘、下前腸骨棘、坐骨結節、大腿骨小転子、膝蓋骨、脛骨粗面に発生し、頻度は上、下前腸骨棘、坐骨結節の順で、14~16歳に発症のピークがあります。サッカーのキック動作時には下前腸骨棘に起こることが多く、まれに上前腸骨棘にも起こりますが、上前腸骨棘はスタートダッシュやジャンプ時、坐骨結節はハードル競争時、走っていて転びそうになった時などに起きやすいとされています。
上、下前腸骨棘、坐骨結節、大腿骨小転子の裂離骨折は、スポーツ中に突然、ビシッといった音(骨折音)を感じると共に、股関節に激痛が出現することが多く、起立や歩行ができなくなります。損傷が軽ければ、すぐに歩行可能となりますが、圧痛は持続します。普通、歩行困難は続き、上、下前腸骨棘の裂離骨折では股関節を曲げたままとなり(股関節屈曲位)、伸ばすと強い痛みがあり、逆に、坐骨結節の裂離骨折では股関節を伸ばし、膝を曲げたままとなります(股関節伸展・膝関節屈曲位)が、痛みは軽いことが多く、すぐにびっこ歩行(跛行)できるようになります。
原則的に股関節周辺の裂離骨折は保存療法で、初期は安静臥床、冷却を行い、筋肉による牽引力がかからない姿勢(肢位)をとらせます。裂離骨折部の圧痛のみの軽症例では、普通に歩行させてもかまいませんが、転位や局所の腫れ(腫脹)の大きいものでは、痛み(疼痛)や腫脹が強い間は安静臥床や松葉杖歩行となります。多くは3週間程度で他動による可動域訓練を中心にしたリハビリテーションを始め、1カ月程度で普通生活が出来るようになりますが、再発もあり、4~6週で軽いスポーツより始め、完全なスポーツ復帰までには2~3カ月かかります。
下前腸骨棘の裂離骨折では大きな転位を起こすことはまれですが、上前腸骨棘や坐骨結節の裂離骨折で、2㎝以上の転位の大きなものでは手術することもあります。
脛骨粗面の裂離骨折は、14~19歳のジャンプした時、幅跳びや跳び箱の着地の時にバランスを崩して転倒し、膝関節部に骨折音を感じ、膝の伸展が不能となり、歩行困難となります。膝蓋骨のやや下方の腫脹と圧痛があり、指で押すと骨折部がこすれ合う音(軋轢音)を感じます。受傷後、膝を伸ばしたまま(膝伸展位)、大腿より踵まで副木をあてて運び、手術後約4週間、膝伸展位でギプス固定し、スポーツへの復帰まで3カ月以上かかります。