経口補液療法ORT;Oral Rehydration Therapy
- 水分と電解質の補給の実際 -
経口補液療法は、下痢に伴う脱水症の治療法として、経静脈輸液(点滴注射)に引き続き、経口的に水と電解質と糖を吸収させるために、1950年代に米国で広まりました(ORT;OralRehy
drationTherapy)。もともと、WHOが下痢による死亡率の高い開発途上国の乳幼児の脱水の治療のために、救命的な目的で経口電解質液(ORS;OralRehydrationSolution)を開発したところから始まり、徐々に改良が加えられ、日本では1965年にソリターT顆粒(2号、3号)が市販されました。
しかし、これらの医療用経口電解質液は糖分が少なく、電解質(塩分NaCl)が多めなため、味が良くありません。健康な人にとっては嫌な味の電解質液でも、明らかに脱水症を起こしている子どもはむさぼるようにして飲むと言われていますが、普段から甘い物を食べたり飲んだりして、栄養状態の良くなった日本では、経口補液療法の目的が、明らかに脱水症を起こしてしまっている子どもの治療ではなく、脱水症の予防(進行阻止)、点滴による苦痛の回避、さらに点滴による脱水症改善後の維持補液なので、味と香りが重要な要素となります。この点を改善し、家庭レベルで脱水症を防ぐ目的で、1980年代に医薬品外の乳幼児用イオン飲料としてアクアライト(和光堂)、アクアサーナ(森永)などが市販されてきました。ところが、健康イメージのスポーツドリンク(アイソトニック飲料)の流行に伴い、小児の下痢の治療にこれらを応用すると、多すぎる糖分によって、腸内が発酵し、下痢をひどくしたり、低張性脱水症(電解質が薄まりすぎる状態)を起こしたりします。下痢で失われた水分や電解質を口から補給するためには、下痢便の電解質組成に見合った経口補液が必要です(表1)。本来、スポーツドリンク製剤は、スポーツで失われた汗(電解質)と糖分を補給するもので、下痢の治療や健康な小児が飲むものではありません。また、健康な乳幼児がスポーツドリンクを1リットル以上多飲して、水中毒(水分を多く取りすぎて、電解質が薄まりすぎた状態)や脚気(ビタミンB1欠乏による神経障害)を起こすことも報告されており、適切に飲用することが大切です。しかし、良い物でも飲めなければ脱水は改善されませんので、まず、①医療用電解質剤(ソリターT顆粒2号、3号)を試して、それが飲めれなければ②乳幼児イオン飲料(アクアライト、アクアサーナ)、それでもダメなときは、③スポーツドリンクというふうに臨機応変に対応する必要があります。スポーツドリンクしか飲めない場合には、多少塩分を加えたり、他の物と混ぜたり薄めたり、うどん汁やうすめの味噌汁、塩分を加えた野菜スープなどで電解質を補充する工夫が必要です。また、これらが手元にない場合はホームメイドで作ることもできますが、味を工夫する必要があります(表2)。
乳幼児はもともと大人に比べ体内の水分量が多く、1日に必要な分量は体重1㎏当り120~150mlで、大人(40ml/㎏/日)の約3倍以上で、脱水がひどくなると150~180mlにもなります。さらに、発熱していたりすると大人の倍以上の水分が皮膚からも失われます。ですから、体重10㎏の乳児の脱水症では、1.5リットル以上の水分が必要になり、少量を頻回に、欲しがるだけ与えます。