― 肥満と水泳 ―

 小児の肥満の頻度は、少し古い統計ですが、1968年と1989年の学校保健統計調査報告書を比較すると、男児で約3倍、女児で約2倍に増加しています(図1)。この肥満児の増加には、テレビ、テレビゲーム、ファミコンなどの室内遊びが増加し、屋外での遊び、運動の減少、それに伴う消費エネルギーの減少、欧米化された食生活などに伴う摂取エネルギーの増加、生活様式の変化が大きく関与しています。
 肥満児は運動が苦手だとされていますが、トレッドミル(角度の変わるベルトコンベアー)を使って、運動負荷をしてみると、運動開始直後に最大の酸素消費がみられ、いったん身体を動かし始めた後では、ほぼ一定の酸素消費で運動を続けることがわかっています。このことは、最初に大量の酸素を消費してしまうと、それだけ運動持続時間が短くなることを示しています。すなわち、肥満児は急に方向を変えたりする運動が連続すると短時間で動けなくなってしまうため、サッカーなどは最も苦手なスポーツということになります。
 逆に、肥満児に最も適した運動は、水中の運動である水泳であるといえます。その理由は、①水中では水の抵抗のため、急に動き出したり、急に方向を変えたりすることができない、②浮力がついて、身体を動かすことが容易になる、③みんなが水着で、身体の容姿を気にしなくてすむ、④得意な水中運動(水泳競技)には個人差があり、誰でも相手より優位な立場で運動できる機会があるので、みんなで楽しんで、長時間運動したり、遊んだりすることができることなどがあげられます。一般に、有酸素運動で、1日に300kcal前後の運動を行うことが勧められています(表1)。
 小児は成長の過程にあるため、今以上の体重にならないようにしていれば、肥満が進行することはありません。したがって、動機づけをしっかりして、目的意識をもたせることが大切です。そのためには、肥満児一人に行わせるのではなく、家族全員で運動を行ったりして、協力してゆくことが必要です。毎日体重を測定して、少しでも体重減少がみられれば、大いに激励してあげることも、長続きさせるコツです。