― 自家中毒症(周期性嘔吐症、アセトン血性嘔吐症、ケトン血性低血糖症)―

 腹痛や嘔吐をくり返し、食中毒と似た症状があるが、悪い食べ物を食べた形跡がないものを以前から自家中毒症と呼んでいました。最近では、周期性嘔吐症と呼んだり、血液の中にアセトン(ケトン体)が増えるので、アセトン血性嘔吐症と呼んだり、現在では、その病態をさしてケトン血性低血糖症と呼んだりしています。
 2~5歳ぐらいに多く、授乳間隔の短い乳児では飢餓になることがないのでありません。過保護に育てられた、神経質で依存的なやせた子どもで、一人っ子の男の子に多く、怒られたり、運動会や遠足で疲れすぎたり、興奮したり、風邪をひいたり、食べ過ぎたり、いろいろなストレスが引き金になり、嘔吐をくり返します。子どもは大脳新皮質の機能が不安定で、間脳・大脳辺縁系に対する制御も不完全で、嘔吐中枢から制御される視床下部ホルモンのバランスが崩れやすく、自律神経の未熟性もあり、嘔吐しやすいとされています。
 症状は急に何回も吐き、グッタリして、元気がなく、腹痛を訴え、顔色が蒼く、あくびをして、吐いた息(呼気)がりんごの腐ったような甘酸っぱい臭い(アセトン臭)がします。風邪などの感染がなければ、発熱、頭痛、下痢はありませんが、速く、弱い脈になります。心身が疲れ、胃も疲れて食物を腸に送れず、ウトウトするようになります。血液中のケトン体(アセトンなど)が増え、アシドーシス(酸血症)になります。血液中の糖分が不足し、体に蓄えている脂肪を燃やしてエネルギーに変えるため、その分解産物のアセトンが増え、尿にケトン体が出てきます。子どもは飢餓に対して耐容能が低く、正常児でも30時間以上の飢餓で血糖の低下やケトン体の増加がおこります。尿のケトン体はこのような飢餓状態が続くと自家中毒症以外でも出てきます。以前は嘔吐がひどくて胃や食道の粘膜が傷ついて出血して、コーヒーかす様の吐物がみられることもありましたが、最近では昏睡に陥るような重症例はみられなくなりました。これは診断技術の進歩によって脳や代謝異常などが的確に鑑別診断されるようになったり、子どもの栄養状態が改善され、抵抗力がついたことも関係しているようです。
 心身が疲れているのでまず十分睡眠をとります。吐き気が強いときは吐き気止め(座薬など)を使って、胃を30分ほど休めてから、電解質の入った飲み物(アクアライトやアクアサーナ)を20~50mlぐらいの少量から何回も与え、徐々に増やして、1日で1リットルぐらい飲ませ、脱水にならないように気をつけます。アメをなめたりして、甘いものも十分に取り、食べやすい消化の良い物から徐々に食べていきます。嘔吐がひどく脱水が強いときには、点滴をしたり、それでも治らないときは入院することもありますが、多くは2~3日でケロッと良くなります。
 10歳以上になると筋肉量も増え、筋組織からの糖新生がうまくゆくようになり、体重あたりの糖の必要量も減り、自然に治ってゆきます。子どもに過保護や厳格になりすぎていないかを思い返して、心の緊張や不安を取り除いてあげることも大切です。