― 過換気症候群 ―

突然の過換気発作(呼吸が速くなってハーハーした状態)によって呼吸性アルカローシス(血液の中の二酸化炭素濃度が減って、血液がアルカリ性に傾くこと)が起こり、身体症状や精神症状を起こしてくる心身症(心理的社会的因子が密接に関係していろいろな症状を起こしてくるもの)の一つで、転換性障害(ヒステリー)に合併することも多いとされています。
 身体症状は呼吸性アルカローシスとその人の身体的特性としてのβ受容体の感受性亢進によるものと考えられ、その結果、脳血管、冠動脈を含めた全身の血管の攣縮(収縮)が起こり、いろいろな症状を起こし、20~60分ぐらい持続します。家庭内不和や学校での対人関係など強い不安や緊張感を背景に起こることが多く、ほとんどが中学生以上で、30歳代までの女性に多くみられます(男女比は1:2)。運動、疲労、入浴、発熱、注射などの身体的因子や不安、恐怖、怒りなどの心理的因子が誘因となります。
 症状は初めに呼吸促迫(呼吸が速くなること)、息が吸えない、呼吸困難感などの呼吸器症状と動悸、胸部絞扼感(胸がしめつけられる感じ)、胸痛などの心臓症状からはじまり、頭痛、めまい感、意識混濁、失神などの中枢神経症状や手足、顔面などの異常知覚(しびれ感が主)、四肢の硬直、テタニー型痙攣、気分不快、腹部膨満や精神症状として興奮、不安、恐怖状態などがみられるようになります。運動による呼吸の乱れが誘因となり、中学生や高校生では、友人の過換気発作をきっかけに仲の良い友人間で集団発生したりすることもあります(集団ヒステリー)。もともと不安障害や神経症的状態を伴う場合には、不安や緊張感などの不定愁訴がみられますが、発作のない時には症状はありません。
 症状も訴えも多彩なため、喘息、甲状腺機能亢進症、頻拍性不整脈、低カルシウム血症、てんかん、周期性四肢麻痺、ヒステリー、恐慌性障害、不安障害、詐病などの鑑別が必要になりますが、発作中の動脈血ガス分析による呼吸性アルカローシスの所見とペーパーバッグ法による症状の改善で診断できます。
 身体症状が本人や家族の不安を高め、悪循環になることが多いので、発作時は、不安を軽減するように働きかけます。本人自身が過換気の状態を自覚していないことが多いので、その状態を本人に伝え、意識的に呼吸をゆっくりするよう促します。効果がない場合には、ビニール袋や紙袋を口と鼻にあて、呼気中の二酸化炭素を再呼吸させて、血中の二酸化炭素濃度の低下を防ぐペーパーバッグ法を行います。この方法で症状は改善しますが、長時間行うと、血中二酸化炭素濃度が上昇しすぎたり、酸素濃度が低下し、過換気状態が再燃することもあり注意が必要です。また、ペーパーバッグ法で改善しない場合には薬物治療が必要となります。発作消失後に抗不安薬などを投与することもありますが、予後は良好で、多くは思春期のうちに消失してゆきます。
 発作時の症状が激しいと、本人も家族も不安が大きくなるので、病態を良く説明して不安を軽減・除去することが発作の予防につながります。